昆虫食(後半)

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前回のコラム 昆虫食(前半)の続きをご紹介します。

 

前回,シロアリの栄養価(灰分,炭水化物,食物繊維,脂質,タンパク質,エネルギー)についてご紹介しました。今回は,シロアリの油脂とアミノ酸についてのお話です。

表1にシロアリ油を構成する脂肪酸の組成を示しました。どのシロアリでも,不飽和脂肪酸であるオレイン酸の含有量が最も多く,同じく不飽和脂肪酸であるリノール酸あるいは飽和脂肪酸であるパルミチン酸やステアリン酸が続いています。このような脂肪酸組成はオリーブオイルや落花生油で見られ,シロアリ油は植物油に似ています。必須脂肪酸であるリノール酸も多く含まれている点は,着目に値します。

 

表1 シロアリ職蟻から抽出した油脂の脂肪酸組成

脂肪酸

イエシロアリ

ヤマトシロアリ

タカサゴシロアリ

タイワンシロアリ

脂肪酸組成 (%)

ミリスチン酸

C14:0

0.9

1.9

4.2

nd

パルミチン酸

C16:0

10.2

10.6

11.6

8.1

パルミトレイン酸

C16:1

1.6

1.5

2.3

0.7

ステアリン酸

C18:0

10.4

8.1

16.7

19.3

オレイン酸

C18:1

57.6

68.8

52.9

43.9

リノール酸

C18:2

17.8

8.4

10.9

26.4

リノレン酸

C18:3

0.1

nd

nd

nd

アラキジン酸

C20:0

1.4

0.7

1.4

1.6

 

シロアリはC/N比が高い(窒素の含有率が低い)木材を餌としているにもかかわらず,イエシロアリで36%,ヤマトシロアリで26%,タカサゴシロアリで47%,タイワンシロアリで46%のタンパク質を含有しています。シロアリのアミノ酸組成を分析したところ,非必須アミノ酸だけでなく,必須アミノ酸であるイソロイシン,ロイシン,リシン,メチオニン,フェニルアラニン,スレオニン,バリンが含まれていることがわかりました(必須アミノ酸であるトリプトファンはアミノ酸分析時の酸加水分解によって消失するため定量できません)。

近年,価格が徐々に上昇しているものの,今のところ牛肉,豚肉,鶏肉が食卓に上ります。今後,これら食肉の価格が上昇を続け,手が届かないようになれば,昆虫を食べる時が訪れるかもしれません。その際には,糖質は少ないものの,良質な脂質とタンパク質が含まれる食材としてシロアリを食す機会があると思われます。

シロアリだけなくコオロギなど昆虫を食べる際に,心配されるのがアレルギーです。甲殻類アレルギーの主要な誘発物質であるトロミオシンは熱に安定なタンパク質であるため,加熱調理してもアレルゲンとしての機能を保ち続けます。エビやカニなど甲殻類のトロポミオシンは,アミノ酸配列の相同性が高く,抗体が結合するエピトープのアミノ酸部分配列が保存されているため,お互いに抗原交差性を示します(柴原 2008)

図1に,哺乳類,鳥類,昆虫,ダニ,甲殻類のトロポミオシンのアミノ酸配列を示します。最上列のヒト(哺乳類の代表としてヒトのアミノ酸配列を用いていますが,ヒトを食べるという意味ではありません)と同じアミノ酸は・で表示されています。また,赤枠がエピトープと予測されるアミノ酸部分配列を示しています。上段右側の赤枠内の配列を見ると,哺乳類と鳥類ではアミノ酸が完全に一致していますが,昆虫と甲殻類ではアミノ酸が置換されていて,なおかつ昆虫と甲殻類間でアミノ酸が保存されていることがわかります。エピトープのアミノ酸部分配列が保存されていることが,甲殻類の抗原交差性を裏付けていることを考えると,同様にアミノ酸の部分配列が保存されている甲殻類と昆虫の間でも抗原交差性が示されるものと考えられます。これまでに,ゴキブリとダニに対しては抗原交差性が確認されているので,エピトープの配列が類似しているシロアリも抗原交差性を示すものと予測されます。要約すると,「甲殻類アレルギーの方は,シロアリを食べるとアレルギー症状がおこると予測されるので,シロアリを食べてはいけません」ということになります。

 

  

図1 トロポミオシンのアミノ酸配列

*すべてのタンパク質で同一,:アミノ酸の性質が同じ,・アミノ酸の性質が類似

 

柴原, . (2008). "甲殻類アレルゲン." 日本食品科学工学会誌  55(11): 571-571.