昆虫食(前半)

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世界では1000~1900種の昆虫が食べられていると推定されていています。最もよく食べられているのは鞘翅目(ゲンゴロウ,ミズスマシ,ガムシなどの成虫で,2位は鱗翅目(チョウやガ)の幼虫3位は膜翅目(ハチやアリなど)の幼虫とさなぎ,4位は直翅目(バッタ,イナゴ,コオロギなど)の成虫と幼虫,5位は半翅目(セミ,ヨコバイ,ウンカ,カイガラムシ,カメムシなど)の成虫が続きます。等翅目(現ゴキブリ目シロアリ下目シロアリは,蜻蛉目トンボなどとともに6番目に多く食べられています。なお,シロアリは職蟻(幼虫)ではなく有翅虫(成虫)がよく食べられてい(Huis et al. 2013a)

  

日本には4科12属24種のシロアリが生息しています。この中で家屋害虫として身近な存在であるイエシロアリ(写真1)とヤマトシロアリ(写真2),高等シロアリであるタカサゴシロアリ(写真3)とタイワンシロアリ(写真4)の食品成分分析の結果をご紹介します。

  

図 13, Pictureコンテンツ プレースホルダー 10, Picture

写真1 イエシロアリ(左:蟻,右:兵蟻)

  

図 15, Picture図 14, Picture

写真2 ヤマトシロアリ(左:蟻,右:兵蟻)

  

図 11, Picture図 10, Picture

写真3 タカサゴシロアリ(左:職蟻,右:兵蟻)

  

図 9, Picture図 8, Picture

写真4 タイワンシロアリ(左:職蟻,右:兵蟻)

  

 

室内飼育したイエシロアリヤマトシロアリ職蟻石垣島で採集したタカサゴシロアリタイワンシロアリ職蟻の栄養価を表1に示しました。室内飼育したイエシロアリとヤマトシロアリは脂質が多く,タカサゴシロアリとタイワンシロアリは食物繊維が多いことがわかります。これまでに報告されているイエシロアリ職蟻の脂質含有率23.7%(遠藤. 1986)と比べると,屋内飼育コロニーイエシロアリ職蟻の脂質含有率は46.5%と高い一方で,野外コロニー職蟻の脂質含有率は17.5%と低い結果となり,コロニーにより脂質含有率にバラツキが見られました。遠藤ら(1986)によイエシロアリ職蟻,兵蟻,ニンフ,有翅蟻の脂質含有率は,それぞれ23.7,27.0,56.1,44.9%と報告され,階級によっても脂質含有率にが見られます。シロアリの外骨格であるキチンは,食物繊維として定量されます。推測の域を出ませんが,タカサゴシロアリとタイワンシロアリでは,体表からの水分蒸発を低減させるため外骨格が厚くなり,食物繊維が高く定量されたものと思われます

牛肉のタンパク質含有率は55.0%,脂肪含有率は41.0%と報告されています(Huis, A. et al., 2013b)。牛肉と比べると,タカサゴシロアリ職蟻とタイワンシロアリ職蟻ではタンパク質含有率がそれほど低くなく,脂質含有率は1/5~1/13程度であるため,ヘルシーな食と言えます。また,室内飼育したイエシロアリ職蟻とヤマトシロアリ職蟻は,脂質含有率が高く,食糧危機の際には優れたエネルギー供給源になる可能性を秘めています。

  

イエシロアリにナンプラーを少々加えて炒めると,エビのような風味がして,とても美味しくいただけます。シロアリは,食糧危機が訪れた際には,タンパク質,脂質,ビタミンの供給源として活用できる可能性を秘めています。今は害虫として扱われていますが,いつかイエシロアリが食料や飼料として活躍する日が来るのではないかと期待しています

 

表1 シロアリ職蟻の栄養価(vs乾燥体重)

グルコース当量(還元糖),食用昆虫の窒素タンパク質換算係数5.33(タンパク質)とアトウォーター係数(エネルギー)を用いた

**和歌山県の野外コロニーで採集した職蟻

***鹿児島県の野外コロニーで採集した職蟻

 

Bukkens, S. G. F. (1997). The nutritional value of edible insects. Ecology of Food and Nutrition 36: 287-319.

遠藤・山之口・三橋 (1986). イエシロアリの脂質成分. 油化学 35: 386-387.

Huis, A., J. Itterbeeck, H. Klunder, E. Mertens, A. Halloran, G. Muir, P. Vantomme (2013a) 2. The role of insects. In "Edible insects: future prospects for food and feed security", pp. 5-34.

Huis, A., J. Itterbeeck, H. Klunder, E. Mertens, A. Halloran, G. Muir, P. Vantomme (2013b). 6. Nutritional value of insects for human consumption. In "Edible insects: future prospects for food and feed security", 67-88.