これからの日本の住まいに求められる要件とは -日本のすまいを説明できますか(その2)

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今回の当コラムは、PPM LINEコラム第5回「日本のすまいを説明できますか」に続く内容になります。

 

202541日改正建築基準法が施行されました。この改正は、主として

全ての新築で省エネ基準適合を義務化

木造戸建住宅の建築確認手続き等を見直し

木造戸建住宅の壁量計算等を見直

3点になります。

簡単に解説すると、①は、これまで300㎡未満の木造住宅は建築士から建築主に対し説明の義務があり、住宅設計への適用は建築主の判断で済みましたが、これが必須事項となりました。なお、現行の省エネルギー基準は、2030年までにZEHZEB水準までが引き上げられる予定です。

 

 

省エネルギー基準の適合1

 

②は、4号建築物と呼ばれていた木造2階建ては建築確認申請書類の一部図書省略が認められていましたが、「階数2以上または延べ面積200㎡超」に該当する木造住宅は新2号建築物の範疇となり、図書省略の適用がなくなりました。図書省略とは、例えば、建築士が設計した一般的な木造住宅(4号建築物)は、建築士の責任において建築基準法への適合性が確認されているとみなし、確認申請に添付する基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図および軸組計算表等の設計図書の添付は不要としたものです。

 

建築確認の対象1

 

③は、木造住宅の地震に対する構造設計は、住宅の屋根が瓦葺きだと重い住宅、瓦以外の金属や窯業系の材料で葺いた住宅は軽い住宅の2区分により地震に対する構造安全性を判断していましたが、設計する住宅の重量を精査に算定し、その重量に見合う構造設計を行うことになりました。これは、①の住宅への省エネルギー基準の義務づけから見直されたものです。省エネルギー基準が義務づけられると、断熱性能に関係する断熱材の種類・厚さによる断熱材の重さ、太陽光パネルの設置による荷重、屋根葺き材や壁の仕上げ材による材料の重さ違いなど、これまでの重い屋根、軽い屋根の2区分では地震に対する構造設計が不十分との見解による改正です。

 

建物重量の2区分の廃止1


以上の改正建築基準法により、当コラム第5回で紹介したような昔ながらの家づくりはますます難しくなったように感じますが、第5回のコラムの最後に紹介した国交省の取り組みがあれば、和のすまいが無くなることはありません。

和の住まいに関する政策として「気候風土適用住宅の認定」を紹介します。気候風土適用住宅とは、国と各地の所管行政庁がつくる認定基準により認定された木造住宅です。省エネ基準では、伝統的構法による住宅など地域の気候及び風土に適応した住宅では、断熱性能に関わる外皮基準に適合させることが難しい建築的要素(例:両面真壁の土塗壁等)を有する住宅(気候風土適応住宅)について、断熱性能の基準を適用除外することとしています。


国が定める気候風土適用住宅の要件は、次のとおりです
2
1.次のイからニまでのいずれかに該当するもの

イ.外壁の過半が両面を真壁造とした土塗壁

 

外壁真壁

 

ロ.外壁が両面を真壁造とした落とし込み板壁

 

 

落とし込み板壁2

 

ハ.屋根が茅葺

 

萱葺き屋根

 
二.次の(1)及び(2)に該当すること

(1)外壁について、次の()から()までのいずれかに該当すること

()片面を真壁造とした土塗壁

()片面を真壁造とした落とし込み板壁

()過半が両面を真壁造とした落とし込み板壁

 

(2)屋根、床及び窓について、次の()から()までのいずれかに該当すること
()屋根が以下のいずれかの構造であること

①化粧野地天井

②面戸板現し

 

 

 

化粧野地板天井と面戸板現し

 

③せがい造り

 

せがい造り

 

()床が板張りであること

 

板張りの床

 

()窓の過半が地場製作の木製建具であること

木製の建具

 

次に、各地の所管行政庁がつくる認定基準は、国の定めた要件では地域の気候及び風土に応じた住宅と認めるには足らない場合、国が定めた要件と同等な要件を別に定めものです。各地の所管行政庁のホームページでは、その地域の気候風土適用住宅認定のための要件が掲載されています。

 

これらの要件は、ユネスコの無形登録文化遺産に登録された「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」を駆使した伝統的な家づくりには欠かせません。また、木造住宅の構造部材や羽柄材の機械プレカット加工が90%を超えた現代の家づくりでは、建築大工技能の継承が成り立ちません。技能伝承においても気候風土適用住宅の家づくりが必要になります。

匠の技を駆使した木造住宅

 

気候風土適応住宅は、省エネ基準の外皮基準に適合させることが困難である住宅が該当します。だからといって、住宅の省エネ化や断熱・気密化を無視する住宅造りを勧めるものではありません。地球環境・エネルギー問題や近年の猛暑対策を考えれば、室内温熱環境に対する建築主や設計者の関心は高まっています。

 

気候風土適応住宅においても、開口部等の外皮を構成する全てまたは一部の部位に一定程度の断熱化が図られれば、それに伴って住宅全体の省エネ性能の向上を見込むことができます。

 

これからの日本の住まいに求められる要件とは、気候風土適用住宅を基本とし、可能な省エネルギー機能を有する地球環境と住まい手に優しい家造りであって欲しいと思います。また、家づくりに欠かせないのが維持管理です。新築時の住みやすさ、耐久性能や構造性能を長年に亘って維持しなければ、良いすまいとはいえません。維持管理のノウハウは読者の皆さんが日頃から研究されていることと存じます。これからの日本の住まいには一番大切だと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

 

天然素材で構成された屋内空間

 

 

[参照・引用]

1:国土交通省からのお知らせ/20245月版

2:気候風土適応住宅の解説2024 年度版/(一財)住宅・建築SDGs推進センター

3:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html

4:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/kikoujirei.html

5:https://kino-ie.net/

6:https://www.kkj.or.jp/

 

コラム①「木造住宅等の構造や耐久性に関するコラム」はこちら
コラム②「日本のすまいを説明できますか」はこちら