DNAで追うシロアリの巣とアジェンダSCの効果

 生物の系統解析や個体群解析には,ミトコンドリアDNAの塩基配列(COI:Cytochrome c oxidase subunit I,COII,16S rRNA遺伝子など)を比較する方法が広く用いられます。しかし,ミトコンドリアDNAは一般に母系遺伝し父系からの遺伝情報を反映しないため,コロニー内の詳細な血縁関係や親子関係の解析には核DNA由来の遺伝マーカーが必要となり,個体間の遺伝的差異を高い解像度で検出できるマイクロサテライトマーカーが用いられます。また,ddRAD-seq(double digest Restriction-site Associated DNA sequencing)や全ゲノムシーケンスによるSNP(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphism)解析が個体群遺伝学や生態学,進化学の研究で利用され,イエシロアリにおいてddRAD-seq由来のSNPを利用した世界的な侵入経路の研究が報告されています(Blumenfeld et al. 2021)。

 近年のシロアリ研究では,少数のコロニーを対象とした血縁解析や繁殖構造の解析にはマイクロサテライト解析が,広域の個体群構造解析や進化・系統地理学的研究にはddRAD-seqやSNP解析が用いられる傾向にあります。それぞれの手法には特徴があり,研究目的に応じて適切に使い分けられています。

 シロアリは社会性昆虫であり,コロニーの構造や繁殖様式を理解するには個体間の血縁関係を詳細に明らかにする必要があり,1遺伝子座位あたりの多型性が高く,数個から十数個のマーカーでコロニー構造や血縁関係を効率よく推定できるマイクロサテライト解析が用いられます。実験では,DNA中に存在する短い繰り返し配列(マイクロサテライト)の繰り返し回数が個体ごとに異なることを利用し,PCRで対象領域を増幅した後,DNA断片の長さを電気泳動で測定して個体間の違いを解析します。

 ここでは,アジェンダSC(0.03%)で処理したイエシロアリのコロニーの変遷をマイクサテライト解析により追跡した例を紹介します(Itakura et al. 2021)。先ず,対象となる区域に埋設したシロアリ調査用のベイトステーション内の餌木を加害したイエシロアリを採集し,マイロサテライト解析を実施しました。この結果,この区域には2つのイエシロアリのコロニーが存在することがわかりした(図,2016)。翌年の6月に,コロニーBに属するイエシロアリが食害しているベイトステーション4-1の周囲にアジェンダSC(0.03%)による不連続土壌処理を行いました(図,2017)。アジェンダSC(0.03%)で処理されたコロニーBに属するイエシロアリは,処理後2年4カ月間にわたって採集されることがなく,コロニーBの活性が抑制されることがわかりました(図,2018と2019)。処理後5~6年経過時には,コロニーBの活動範囲が広範囲になり,処理前の状態と同レベルまで復活したと推定されました(図,2022と2023)。この間,コロニーAに属するイエシロアリの活動が抑制されることはありませんでした(図,2016~2023)。

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図:イベントエリアの変遷図(2016年~2023年)イエシロアリコロニーの変遷(コロニーA:薬剤処理なし,コロニーB:2017年6月アジェンダ不連続土壌処理)

 この研究では,マイクロサテライト解析により,コロニーBに属するイエシロアリの活動範囲が少なくとも53 mにおよぶこと,また,アジェンダSC(0.03%)土壌処理後にベイトステーションから採集したシロアリの体内および体表に存在するフィプロニルと分解化合物のLC-MS/MSでの定量により,フィプロニルを体内に取り込んだイエシロアリ職蟻が23 m移動すること,兵蟻はフィプロニルを体内に取り込まず体表に付着するのみであることが明らかになりました。

 





Blumenfeld, A. J., et al. (2021). "Bridgehead effect and multiple introductions shape the global invasion history of a termite." Communications Biology 4(1): 196.
Itakura, S., et al. (2021). "Colony Suppression and Possible Colony Elimination of the Subterranean Termites Coptotermes formosanus and Reticulitermes speratus by Discontinuous Soil Treatment Using a Diluent of Fipronil Suspension Concentrate." Insects 12(4): 334.