シロアリの水素生成について

 下等シロアリの腸内には,原生生物,バクテリア,スピロヘータなどの微生物が生息しています。これらの微生物により,木材を構成するセルロースやヘミセルロースなどの多糖は酢酸,二酸化炭素,水素などへ発酵されます。下等シロアリの後腸の前部と中央部は嫌気性環境にあり,水素が集積しています(Brune 2014)。この水素は微生物による酢酸生成やメタン生成に利用されます。シロアリの腸内微生物を利用した水素生産に関しては,多くの報告があります(Taguchi et al. 1992, 1994, Yoshimura et al. 2009, Mathew et al. 2013)。ここでは,1例として私たちの研究室で実施したヤマトシロアリの後腸から分離した細菌による水素生産の結果をご紹介します(Konishi et al. 2020)。

 ヤマトシロアリ職蟻20匹の後腸をHP培地(0.1% トリプトン, 0.05% 酵母エキス, 0.05% 食塩,0.01% リン酸水素二ナトリウム)中でホモジナイズした液を,微小遠心管に入れ,嫌気環境と好気環境,27℃で一定時間培養した際に生成する水素をXG-100 ポータブルガス分析装置(新コスモス電機(株))で定量しました。その結果を図1に示します。嫌気条件では好気条件の約5~6倍の水素が生じることがわかりました。シロアリの腸内が嫌気環境であり嫌気性細菌が活動していることを考えると,もっともな結果であると考えられました。






 次に,木材のセルロースやヘミセルロースを構成する単糖であるグルコース,アラビノース,キシロース,マンノース,ガラクトースを1%となるようHP培地に加えて,生成する水素を定量しました。嫌気環境での結果を図2に,好気環境での結果を図3に示します。嫌気・好気どちらの環境でも水素生産量は図1炭素源なしの約10~100倍になり,炭素源を加えると水素生産量は嫌気環境と好気環境でほとんど差がなくなりました。また,グルコースとマンノースでは水素生産量が少なかったのに対し,ガラクトースやアラビノースを加えると水素生産量が多くなることがわかりました。ガラクトースとアラビノースはヘミセルロースを構成する単糖であり,木材を原料としたバイオエタノール生産の際に,酵母がアルコール発酵できずに残存する単糖であることが知られています。バイオエタノール生産時に発生する廃液を炭素源としたシロアリ後腸細菌による水素生産システムへの応用が期待される結果となりました。

 










 水素生成細菌の16S rRNA遺伝子のV3-V4領域DNA(465 bp)を増幅し,ヤマトシロアリの水素細菌の同定を試みた結果,Enterobacter sp.と99.0%以上の相同性を示しました。イエシロアリとヤマトシロアリから水素生成細菌としてEnterobacter cloacaeが報告されているので( Yoshimura et al. 2009),この実験での水素生成細菌もE. cloacaeである可能性が高いと考えられます。

 V3-V4領域では種の同定まで至らなかったので,16S rRNA遺伝子のV1-V9領域DNA(1466 bp)を増幅し,イエシロアリとヤマトシロアリの水素細菌細菌の探索を行った結果,イエシロアリから水素生成細菌としてDysgonomonas termitidis(相同性99.5%)の分離に成功しました。この細菌は,ヤマトシロアリの腸から2002年初めて発見され(Ohkuma et al. 2002),2015年に新規細菌Dysgonomonas termitidisと命名されました(Pramono et al. 2015)。この論文では,「D. termitidisはグラム陰性,通性嫌気性,非運動性の桿菌で,至適生育温度30℃,ラクトース,グルコース,キシロース,アラビノース,ラムノース,メレジトースを資化するが,サリシン,グリセリン,セロビオース,ソルビトール,トレハロースは資化できない。また,可溶性デンプン,キシランを発酵し,弱いながらもペクチンとカルボキシメチルセルロース(CMC)も発酵する」と報告されていますが,水素生産能力については触れられていません。D. termitidisはシロアリの腸内という極限環境のみで見つかる細菌で,その水素生産能力は明らかにされていません。私たちの研究室では,D. termitidisによる水素生産能力を検討しています。これまでの実験で,D. termitidisは上述したEnterobacter sp.よりも高い水素生産能力を持つことがわかってきました。詳細な結果は,別の機会に報告させていただく予定です。


 
   

Brune, A. (2014). Nat. Rev. Microbiol. 12(3): 168-180.
Konishi, T, et al. (2020). Jpn. J. Environ. Entomol. 31(2): 51-56.
Mathew, G. M. et al. (2013). Bioresour. Technol. 145: 337-344.
Ohkuma, M. et al. (2002). Biosci. Biotechnol. Biochem. 66(1): 78-84.
Pramono, A. K. et al. (2015). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 65(Pt_2): 681-685.
Taguchi, F. et al. (1992). J. Ferment. Bioeng. 73(3): 244-245.
Taguchi, F. et al. (1994). Can. J. Microbiol. 40(3): 228-233.
Yoshimura, T. et al. (2009). Jpn. J. Environ. Entomol. 20(4): 153-163.